1月11日

朝から同門の後輩と市街へ出版社巡りへと出かける。解放軍出版社、中央文献出版社、世界知識出版社、人民出版社、中共党史出版社などである。これらは全て、政府系であるが、実は中国では政府に近いほど、信頼度の高い回顧録や記録、年譜などが出ている。ただし、その分内容に制限がかかっているものが多い。出版社に行けば、わりあい昔(といっても70,80年代)の古い文献も所蔵されていると聞いて、回ってみたのだが、実態はその期待を大きく裏切るものだった。在庫管理が杜撰で、全体的に普通の本屋とあんまり変わりがない。古いものを所蔵しているのか尋ねてみても、ほとんど存在しないようだった。これは難しいことになる。古い資料などは、古本市場に地道に通って集めるしかなさそうだ。あとは、図書館で只管コピーか・・・。意外な収穫としては、まだ市場に回っていない最新刊などが販売されていることである。邓小平の新年譜はもちろん、最近調べている耿飚などの伝記などが売られているのを見かけた。あとは、古本市場では値段がつり上がっているような、昔の資料が以前の物価のまま売られていることである。例えば80年代の資料は、1元(15円)という破格の値段。1元の本と240元の邓小平の新年譜を普通に売ってくれる店主には、好意と不安の両方を覚える。

昼には、北京で唯一(?)の家系ラーメン、無敵家に食べに行く。ずっと楽しみにしていたので、相当満足。家系ラーメンの中では、総本山の系列ではなく、松壱系列のスープに近いような気がした。総本山のような毒々しい味を期待していたので、ちょっと拍子抜けだったけど、味には大満足。

夕方には、同門の学部生たちが北京に来ているということで、一緒に食事をする。おいしい餃子屋さんにも行き、これまた大満足。帰宅後作業。

最近、12月期決算を基本とする国々の統計や企業情報から、色々な結果が届いているが、やっぱり中国の台頭がすごい。予想通り、予想以上といった感じ。中国が米国を抜き、車市場で世界一になったことなどは、市場としての中国を象徴する一つの大きな要素である。

また、中国の地価上昇をバブルではないか、と危惧する記事等が多く目につく。北京に暮らしていて、時々目に入る不動産関係の情報や値段がおどろくほどすごい。東京とほとんど変わらないのである。これは本当にすごいことで、一部では、1980年代の日本、2008年の米国の不動産バブルを想起させ、バブル崩壊が必至であるとの認識がもたれている。ただ、このバブル崩壊を足下からがっちり抑える要素も多数存在する。それは、未だ限界が見えない経済成長、家計収入の増加、都市人口の着実な増加、文化的な要素の強い不動産需要、短期投資のリスクを最小限に抑えようとする日本や米国の存在などである。地下上昇は、経済成長の象徴とされる一方で、現地の人々にも戸惑いをもたらす。中国人にとって、「家を買う」ということは特別な意味を持っている。こうした地下上昇と不動産バブルによって、家を持てなくなった若者は、高層ビルがバンバン建っている北京の街を眺めながら、将来に不安を覚えている。北京に暮らしていると、中国の経済成長の光と影が直に見えてくるので、本当におもしろい。

年度の更新関連で言えば、現在次々と人事異動の結果が公表され、中国外交部の外交官の世代交代が顕著になっている。1940年代生まれの世代が抜け、第一線に1950年代の人材が配置されるようになってきている。外交部副部長に任命された崔天凯、傅莹、翟隽などはその典型だとされている。これらの世代は、改革開放後30年に外交部に勤務したことから、三つの大きな特徴がある。一つは、この三十年間で複雑化した外交事務や外交案件を下積み時代に中心的にこなしてきた人材が中心の中心を担うことになるということである。第二に、改革開放後、海外への留学を経験し、"グローバルスタンダード"に近い「留学経験組」が多いことである。全世代でいえば、杨洁篪、王光亚、次世代でいえば、崔天凯、傅莹、何亚非、张业遂などはそうである。第三に、また比較的安定した事務環境から、人事制度が大幅に変わって行く中で、多くの人事異動を経験し、経験豊富な人材が第一線、第二線で仕事を行うことで、外交部としての厚みが一層増していることである。こうした事務レベルでの世代交代はどうしたインパクトを持ってくるのだろうか。Chen Jianが言うような、外交部全体の感覚が、国際社会での「アウトサイダー」的感覚から「インサイダー的」的なそれへと近づくのは間違いないだろうけど、実際に現実の外交としてどのような変化をもたらすかは、憶測の域を未だ出ない。